- 問題社員を解雇するまでに会社は相応の対応をとらなければならない
- 合法的に解雇するためにはしっかりとした証拠集めが肝心
- しっかりとした証拠集めにはプロの力が必要
問題社員は生産性を下げて経済的なダメージを与えるだけでなく、他の真面目に働いている社員の士気に悪影響を与え離職者の増加につながるなど、会社に与える有形無形の損害ははかり知れません。
ところが法律によって保護されているため、たとえ問題社員であったとしても簡単には解雇するわけにはいかないのが現状です。
- どのような社員であれば辞めさせることができるのか
- 問題社員を辞めさせるにはどのようにすればいいのか
- 不当解雇で会社が訴えられないためにはどうすればいいのか
ここでは問題社員の解雇に頭を悩ませている会社経営者、企業人事・総務担当者に向けて、問題社員解雇の際に必要な裏付け調査の方法や、解雇までの流れなどを解説します。
目次
問題社員とは
問題社員とはどのような人間を指すのでしょうか。
問題社員の種類
非違行為を行う社員
非違行為とは違法行為と職務懈怠の両方を意味します。
- 違法行為:会社資金の横領や備品の持ち出し、インサイダー取引など
- 職務懈怠:無断欠勤、無断早退、遅刻、頻繁に休憩を取るなど職場離脱を繰り返す
能力不足な社員
必要な研修や教育を十分行ったにもかかわらず能力や知識が他の社員に比べて著しく劣り、上司や得意先から望まれるレベルに達していない。それについて危機意識を持たず、改善努力をしない。開き直って居座り他の社員に余分な負担を与える
ハラスメントを繰り返す社員
職務上の優越的な地位を利用し、必要な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える
社外で問題を抱えている社員
- 会社以外でも素行が悪い
- ギャンブルにはまり借金から抜け出せない
- 女癖が悪く不倫や多重交際を繰り返す
- 酒癖が悪く、他人とトラブルを引き起こす
業務命令を拒否する、履行しない社員
- 上司から業務を命令され、正当な理由がないにもかかわらず命令に従わない
- 仕事に関して自分のポリシーが強すぎて上司の指示に従わない
協調性がない社員
他の社員と良好な関係を築くことができず、高圧的な態度をとったりケンカを繰り返したりする
問題社員に対してやってはいけないこと
感情的になって対応をする
問題社員に感情的な対応をしてはいけません。
本人のためを思って注意・指導してきたにもかかわらず、一向に改善されないと感情的になる気持ちはわかります。しかし、それでは余計に問題がこじれるだけでなくハラスメントとして訴えられる可能性もありますので、冷静に対処することが重要です。
問題社員を放置する
問題社員に対しては早急に対応を講じてください。
問題社員を放置していると会社の規律がゆるむだけでなく、次のような風潮が蔓延します。
- 問題社員をまねて、会社や上司の指示に従わなくなる社員がでてくる
- 経営者や上司を軽んじるような雰囲気が生まれる
- 職場の雰囲気が悪化し、嫌気がさした社員の離職が増加する
問題社員ひとりのせいで会社全体に悪影響が及ぶことは間違いありません。
見て見ぬふりをしたり、先送りしたりせず、すぐに必要な対応をとりましょう。
問題社員を解雇するための条件とは
社員を解雇するためには高いハードルが存在します。
たとえ問題社員であっても労働契約法で保護されており、むやみに解雇できません。
解雇するためには以下の条件が必要です。
- 客観的にみて合理的な理由が存在する
- 社会の一般常識に照らし合わせて解雇が相当である
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする。
あわせて問題社員が解雇のための条件を満たしていると、会社側が証明しなければなりませんし、必要な証拠をそろえておきいつでも提示できるようにしておく必要があります。
必要な証拠の種類と収集方法
問題社員を解雇するためには、問題行動を証拠として残すとともに、会社が行ってきた対応も記録しておく必要があります。
必要となる証拠は以下の2種類があります。
- 会社が集める証拠
- 問題行動の客観的な証拠
1.会社が集める証拠
会社が集める証拠とは、以下のような記録になります。
- 問題社員はどのようなトラブルを起こしてきたか
- 問題社員に対し注意・指導してきた履歴
問題社員はどのようなトラブルを起こしてきたか
まずは問題社員の行動を記録しておきましょう。
問題社員にどのようなトラブルがあったのか、どのようなやりとりがあったのかを5W1Hに基づいて、以下のように情報を記録し時系列で整理します。
- いつ:〇月〇日〇時ごろから〇〇時にかけて
- どこで:会社内で
- だれが:X(問題社員の名前)が
- どのような問題行動をおこしたのか:許可も得ずに長時間離席しており、この間何をしていたか不明 など
問題社員に対し注意・指導してきた履歴
あわせて問題社員に対して会社が行った対応も以下のように5W1Hに基づいて記録します。
- いつ:〇月〇日〇時ごろ
- どこで:自社の会議室で
- だれが:A課長とB係長がC(問題社員の名前)に対して
- なぜ:後輩を厳しく叱責していたので
- 何を:指導している口調や態度を
- どのようにした:厳しすぎると注意した など
2.問題行動の客観的な証拠
問題社員がとった行動の証拠は会社側の記録に加えて、客観的に示す証拠も必要です。
客観的な証拠とは、第三者が作成した報告書や写真、音声、動画などをいいます。
もし裁判で争うことになった場合、客観的な証拠が会社で集めた記録の客観性を担保してくれます。
また問題社員がシラを切ったとしても客観的な証拠を突きつければ言い逃れできなくなり、その後の退職勧奨や解雇に向けての交渉も有利に進むでしょう。
客観的な証拠の収集にはプロの力が必要
客観的な証拠集めはプロの調査員に任せるのが無難です。
プロに任せた方が良い理由は3つあります。
1.効率的に証拠を収集するノウハウがある
プロの調査員は日常的に証拠収集のための調査を行なっており、調査対象によってその人物の状況に合わせた効率的な調査プランを練り、それを実行するノウハウと能力があります。
豊富な経験値をもとに様々な調査手法を駆使することで、依頼者の意向に沿った形で客観的な証拠を収集する事が可能となります。
2.証拠として採用される報告書作成のノウハウがある
調査員は裁判所から証拠として採用された調査報告書を数多く作成してきましたので、どのような報告書を作成すればよいかを熟知しています。
プロの調査員以外の方でそのようなノウハウをお持ちの方はいないでしょう。
3.調査がバレると会社と社員の信頼関係を壊す
会社が秘密裡に社員を調査していることがもれてしまった場合、他の社員からの反発や不信を招き、会社と社員との信頼関係に大きなヒビが入ってしまいます。調査のプロであればそのような心配は無用です。
プロの調査員が行う問題社員の調査とは
それでは、プロの調査員はどのような調査をおこなうのでしょうか。以下で解説します。
1.行動調査
行動調査とは、問題社員を尾行や張り込みを行うことによって監視し、問題となる行動を把握・記録します。
具体的には以下のような問題社員の行動を調査します。
- サボっていると疑われる営業社員がちゃんと営業先を訪問しているかを尾行する
- 社内で部下と不倫していると噂される人物の行動を監視する
- 会社の備品や資材を横流ししているとの疑惑がある社員の行動を追跡する
- 反社勢力と付き合いがあると噂される社員の行動を監視する
2.デジタルフォレンジック調査
デジタルフォレンジック調査とは、PCやサーバ、ネットワーク機器、スマホなどのデジタル機器から証拠となるメールやファイルを探し出します。
デジタル機器の解析やデータの復旧など、調査するには専門的な知識が不可欠になります。通常は専門の業者に依頼することになりますが、調査を依頼した探偵事務所で提携するデジタルフォレンジック業者を持っていれば、御社で新たに調査を行う業者を探す手間がありません。また提携により情報交換も円滑に進みますので、効率的でスピーディーな調査が可能となります。
3.データ調査
ネットやSNS、メディア、出版物、各種名簿、依頼主から提供された資料などから、独自に保有するデータベースを用いて、対象となる人物の背景や過去の経歴などを調査します。
情報を補足するため聞き込み調査などを行う場合もあり、また新たな関係者が浮上した場合には、その人物の基本情報を得るためにデータ調査をするケースもあります。
4.潜入調査
潜入調査は、調査員が企業の従業員や関係者に成りすまして行います。
特にパワハラやセクハラが疑われる場合、被害者や周りの社員に確認しても真実を話してくれる可能性は低いでしょう。
そこで調査員が実際に社内に潜入して内部からしか得られない証拠を収集します。
周囲から怪しまれずに情報を引き出すためには、経験に基づいた信頼性の構築や質問の方法など高度なテクニックが欠かせず、プロの調査員でもできる人間は限られます。
証拠を集め、問題社員を解雇するまでの流れ
1.問題社員への注意、指導
解雇への第一段階として、会社は問題社員に対して改善のための注意・指導を繰り返してきたという事実が必要です。
注意・指導には口頭によるものと文書によるものがあります。
口頭での注意・指導
まずは口頭での注意・指導となりますが、1回の指導では改善されることはまれですので、辛抱強く繰り返す必要があります。
また前述したように、指導の際には注意・指導の内容を記録してください。
あわせて対応した際の様子も録音しておきましょう。
問題社員のその時の対応が記録されるとともに、問題社員から後で「パワハラを受けた」と訴えられた際の証拠となります。
あわせて自らの指導の文言や口調が威圧的でなかったかを後で検証できます。
なお録音については問題社員の許可を求める必要はありません。
「会社の指導が問題社員に対して適切であったかを検証するために録音した」という理由で十分です。
文書での注意・指導
度重なる口頭での注意・指導でも改善されない場合は書面での指導に切り替えます。
書面では以下の点を具体的に記載します。
- どのような行動が会社の規約に違反しているか
- 違反によりどのような損害を会社が被っているか
- 違反の原因を特定し、改善を求める
- 書面を受け取ったこと、読んだことについての署名を求める
2.始末書や誓約書を提出させる
注意・指導を繰り返しても改善が見られない場合は、始末書や今後同様の行動を繰り返さないと約束させる誓約書を提出させてください。
提出により自分が問題になっていることを再認識させるだけでなく、問題行動の事実を当人自身が認めたとの証拠となります。
また一定の抑止効果も期待できます。
3.人事異動や配置転換で様子を見る
人には向き不向きがあります。
現在の部署を変えることによって改善がみられるかもしれません。
また本人が移動を拒否したとしても、異動を提案したという事実によって会社は改善に向けて努力したという証拠ともなります。
4.懲戒処分を行う
解雇以外の懲戒処分は以下のとおりです。
- 戒告・けん責
- 減給
- 降格
- 出勤停止
ただし懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の項目が載っている必要があります。
たとえば「戒告・けん責」、「減給」、「降格」しか規定されていない会社は、「出勤停止」を課すことはできません。
5.退職勧奨を行う
退職勧奨とは、問題社員に対して辞めてほしいと伝えて退職を勧めることです。あくまでも問題社員が自主的に退職するように促すことであり、後にトラブルになる可能性は低くなります。
ただ問題社員が素直に退職勧奨に応じるケースは少ないでしょう。その場合には退職に応じる条件として解決金や退職金の上乗せなどが必要となる場合があります。
6.解雇する
会社が解雇を回避するための努力を尽くしたにもかかわらず、真にやむを得ない特段の事情がある場合のみ解雇が認められます。
いかがでしょうか、解雇までの流れを解説しましたが、手順に問題がないかどうかの判断は素人では難しく感じます。
後々のトラブルを避けるためにも、専門家である弁護士の判断を仰ぐ必要があるでしょう。ポイントとしては証拠を集める為の調査は退職勧奨を行う前に済ませておくことです。
もし退職勧奨を拒まれた場合、その後に調査を行なう事は理由の後づけのような印象を与える事になり、例え解雇理由となる証拠が収集されたとしても揉めるケースが多く感じます。
理想としては退職勧奨を行う際にはしっかりと証拠を集めておき、有利な交渉材料として話し合いに臨みたいところです。