- 解決に向けた2つのステップに応じた対応をとる
- 証拠集めが解決へのカギ
- 確実な証拠集めはプロにまかせる
ある日突然、会社に社長や役員を誹謗中傷する手紙が送られてきた、会社を糾弾するメールが社員全員に送り付けられてきた。
犯人が誰なのか、その目的や動機は何なのか全く見当がつかない。
いつの間にか怪文書の件が漏れて社員が動揺しているだけでなく、取引先からも怪文書の内容に関する問い合わせが相次いでいる。
何とかしたいが対策がわからず手をこまねいていたら、2通目・3通目の怪文書が届いてしまった。
たかが文書とあなどるなかれ、怪文書が出回ると重大なリスクが想定されます。
怪文書事件の解決に一刻の猶予もありません。
ここでは解決に頭を悩ませている企業の担当者に向けて、怪文書対策に携わってきた探偵が対処法を解説します。
目次
怪文書が届いた時にやってはいけないこと
1.怪文書に動揺する
まずは会社のトップや役員が動じることなく、毅然とした態度を示すことです。
犯人の目的の一つは社内に混乱を広げることです。
経営陣があたふたしてしまえば社内にいらぬ混乱と懸念を広めてしまい、これでは犯人の思うつぼです。
2.何も対応しない
怪文書が届いたら一刻も早く対応しましょう。
根も葉もない文書なんて無視すればいい、そのうち騒ぎもおさまるだろうと考えてはいけません。多くの場合、怪文書は1度で終わることはなく2度3度と続きます。
怪文書に対して対応が遅れると社員の動揺や関係者の不信感が高まるだけでなく、たとえ怪文書の内容がウソであっても事実ではないかと誤解する人もでてくるでしょう。
一刻も早く犯人を特定して解決しないと傷口が広がるだけです。
怪文書事件解決への2つのステップ
ステップ1 社内で事実関係を確認・整理する
1.怪文書に使われた媒体に応じた対応をとる
郵送やFAXで文書が送られてきた場合
【その1】文書の保存と状況の記録
まずは怪文書の保存と送られてきた状況を記録しましょう。
保存するため怪文書に触る時は手袋をしてなるべく素手で触らないでください。
怪文書の中には以下のような犯人のてがかりとなる証拠が残されています。
- 指紋
- 筆跡
- 使用したインクや糊
- 消印
汚したり、破いてしまったり、紛失したりして貴重なてがかりを失わないよう、文書はクリアファイルやジップロックなどのビニール製の中に保存してください。
あわせて怪文書を発見したときの状況も、次のような事項を記録しておきます。
- いつ発見したか
- 誰が発見したか
- 発見したときに不審な人物をみかけなかったか
【その2】原本をコピー
原本は必ずコピーを取ってください。
もし関係者や警察などに文書を示す際に原本を渡してしまうと、文書の状態が変化する可能性が考えられます。
また文書を見せた相手が犯人とつながっていたり、犯人であった場合には証拠隠滅を図る可能性もあります。
証拠を棄損させないためにも複数枚コピーを取り、コピーを渡すようにします。
インターネット上で誹謗中傷された場合
インターネットで誹謗中傷された場合は、発信者情報開示の手続きによって投稿者を特定できる場合があります。
2.内容を精査し、外部犯か内部犯かの目星をつける
怪文書の内容をよく検討してみると、外部犯か内部犯か推測できる場合があります。
内部の人間しか知りえない秘密の暴露が記載してあったり、就労や待遇など会社への不満であれば内部犯による可能性が高くなります。
一方、話の筋が通っていなかったり、支離滅裂な文書であれば外部犯の可能性が考えられます。
犯人の候補を絞り込むための有力な手段となりますが、ここではあくまで可能性というだけです。
根拠のない憶測だけで行動するとトラブルを拡大させるだけですので、ここではあくまで目安をつけるだけに留めてください。
3.怪文書が送られた取引先の調査と状況の把握
もし取引先にも怪文書が届いていた場合、他にも届いていないかを調査して被害の状況を把握しなければなりません。
取引先に以下のような点を確認し、協力が得られる限りできるだけたくさんの情報を収集しましょう。
- 自社に対する怪文書が届いているか
- いつごろ届いたか
- どのような媒体かを具体的に
(手紙、ビラ、メールなど) - どのような方法で届いたか
(郵送、自社のポストに誰かが投函した、SNSにアップされているのを発見したなど) - どの程度まで話が広がっているか
(会社のトップや役員など一部の人間のみ、社内全体に広がっているなど)
4.お詫びと説明の行脚
怪文書の状況が把握できたら、怪文書が届いた先へお詫びと説明に廻ります。
不審な文書が届いてしまいご迷惑やご心配をかけてしまったことの謝罪と、内容は根も葉もないウソであることを説明してください。
これは社員に任せるのではなく、可能な限り社長や役員自らが出向いてください。
責任ある立場の人間が自ら説明することで、先方の不信感や混乱を抑えて信用の回復を図ることができます。
5.関係者への聞き取り調査
文書の内容が社員個人への中傷や、一部の関係者しか知らない情報が含まれる場合、また内部調査などで犯人とおぼしき人物がわかった場合はその人物に聞き取り調査を行います。
ただし以下の点に注意してください。
- 聞き取りを受けた人物が、「自分が犯人であると疑われている」と思われないようにする
- 必ずしも全員が聞き取りに対して素直に協力してくれるとは限らないことを認識しておく
- 情報を集めるだけでは錯綜して混乱を助長させるだけになるので、情報を精査・整理する
ステップ2 犯人特定と証拠集め
1.犯人特定と証拠集めは調査のプロに任せよう
犯人の特定と証拠集めは調査のプロである探偵に任せるのが最善です。
怪文書の解決のためには、犯人と直接交渉する、警察に訴えて刑事事件として扱ってもらう、弁護士に依頼して損害賠償請求をするなどの対応が考えられます。
どの方法を取るとしても、文書を差し出した犯人を特定し、怪文書を送ったという証拠を提示しなければなりません。
その際の犯人探しや証拠集めを経験がまったくない社内の人間に任せても、期待した結果を望むのは難しいでしょう。
探偵は様々な手段で犯人の特定と証拠集めを行います。
「餅は餅屋」ということわざがあるように、怪文書は調査のプロである探偵に任せましょう。
探偵に調査を依頼すると、以下のようなメリットとデメリットが考えられます。
調査を依頼するメリット
- 怪文書事件を扱ってきた経験から、解決方法を熟知しているため早期解決に導くことができる
- 長年の経験とプロならではのノウハウで犯人に罪を認めさせるだけの質の高い証拠を集めることができる
- 探偵事務所が警察や弁護士と連携していれば、告訴や裁判になった際にもスムーズに引き継ぐことができる
想定されるデメリット
- 調査費用がかかる
- 経験不足の探偵では余計な時間と費用がかかる
- コミュニケーションがとれない探偵だとトラブルになる可能性がある
怪文書事件を解決に導いた事例
※守秘義務に反しない限度で改変しています。
相談内容
依頼者のSさんは、とある不動産会社の総務部長です。
さきごろ、経営陣や社員を誹謗中傷する封書が送られてきました。
最初はただのいたずらだろうと深刻に考えることもなく何の手も講じませんでしたが、1週間後新たな怪文書が届き、今度は取引先にも届いていることが判明しました。
事の重大性に気づいた会社からSさんは調査を指示されるものの、どうしていいのか全くわからず弊社に相談がありました。
解決までの経過
社長は怒り心頭で絶対に犯人を突き止めて罪を償わせることを希望していました。
まずは送られてきた文書を精査したところ、会社の事情にかなり詳しい者の犯行である可能性が濃厚となりました。
そこで過去に問題を起こして会社を退職したなど、犯行の動機がある人物などからピックアップされた複数人を、それぞれ尾行や張り込みを行いました。
3日後、このうちの一人Xが郵便物を投函する姿を確認、後日会社に届いた郵便物と消印が一致し、場所を変えて投函した郵便物は取引先に届いていました。
これらの証拠をもとにXを問い詰めたところ犯行を自供。
会社はXを刑事告訴するとともに、損害賠償請求を検討しています。
まとめ
怪文書が出回ることによる重大なリスクには以下のようなことがあります。
取引先からの信用を失う
「人の口に戸は立てられぬ」ということわざがあるように、怪文書の件が社会に広まってしまうのは時間の問題でしょう。
またデタラメだったとしても、その内容を信じてしまうところもでてくるでしょう。
こうなると会社の信用は失墜し、得意先や取引先から取引が打ち切られるケースが発生します。
また信用を失墜した状態では新規の顧客開拓も難しいでしょう。
社員から会社の信用が失われ、会社の雰囲気が悪くなる
怪文書は取引先だけでなく、社員の信用も失わせます。
社員同士が「犯人は〇〇ではないか」と仲間を疑うようになったり、根も葉もない噂がひろがったりして社内に殺伐とした空気が蔓延します。
こんな雰囲気では社員のモチベーションは下がる一方で、業績に悪影響がでるのは当然です。
また怪文書が出回る会社で働きたいと思う人はどれだけいるでしょうか。
退職する人間が続出するとともに新規の採用にも不利になります。
経営者や会社役員が対応に追われ、業務が停滞する
ただでさえ忙しいのにもかかわらず余計な仕事が増えて業務が停滞します。
怪文書対策で会社の経営者や役員など会社の上層部が怪文書対策に忙殺されると、経営判断などの本来業務がおろそかになり、会社の業績に影響を及ぼしかねません。
また精神的にも追い詰められ、体調を崩すなどの例も多く散見されます。
プロ(調査会社)が行う怪文書事件の調査方法
それではプロはどのように犯人探しと証拠集めをおこなうのでしょうか。
調査方法の一部をご紹介します。
1.筆跡鑑定
もし怪文書が自筆の手紙やビラであれば、筆跡鑑定を行います。
筆跡鑑定はその道のプロがいますので、専門家に依頼します。
ただ犯人も筆跡で自分であることがバレないように、わざと字を崩して字のクセを出さないようにしたり、他人の筆跡に似せて書いたりして対策を講じます。
一見すると違う人が書いたように見える字でも、はねや止め、くずし方、筆圧などを調べることで同一人物か否かの判定ができます。
2.指紋鑑定
ワープロソフトで作成された文書、印刷物から切り取った文字を貼り付けて作成した文書では筆跡鑑定はできませんが、指紋を収集できる可能性があります。
指紋は世界中探しても同じ人物はいませんし、遺伝もしません。また左右10本の指のすべてが違う指紋を持っていますので、指紋が一致したら犯人を特定する有力な証拠となります。
3.隠しカメラの設置や張り込み、尾行
犯人の心当たりがない場合は投函されたポストやビラが貼られていた場所に隠しカメラを設置したり、調査員を張り込ませたりします。
犯行が行われたことを確認した場合、犯人を尾行して名前や住所の特定を行います。
4.行動調査
犯人の目星がついている場合には、その人物の行動をマークして更なる証拠を収集するとともに、共犯者がいないかどうかの確認も行います。
5.発信者情報開示請求
インターネットで誹謗中傷された場合は、発信者情報開示の手続きによって投稿者を特定することができます。
投稿者を特定するために開示請求できる情報は
- 氏名
- 住所
- メールアドレス
- インターネット上に登録した電話番号
- 発信日時
- 発信者のIPアドレス
- SIMカード識別番号
などです。発信者開示請求を行う場合の大まかな流れは以下のとおりです。
(改正プロバイダー責任制限法より)
その1.誹謗中傷が書き込まれていたサイトの管理者やコンテンツプロバイダに「発信者情報開示命令」の申立てを行う
この命令により投稿者のIPアドレスの開示してもらう
※コンテンツプロバイダとは誹謗中傷が書き込まれていたSNSを運営するプロバイダ
その2.サイト管理者やコンテンツプロバイダに「提供命令」の申立てを行う
この命令によりアクセスプロバイダの名称の提供してもらう
※アクセスプロバイダとは投稿者が接続していたプロバイダ
その3.判明したアクセスプロバイダに対して「発信者情報開示請求」の申立てを行う
アクセスプロバイダに投稿した人物の氏名や住所などを提供してもらう
なお、それぞれの申立ては裁判所に弁護士を通して行います。
この際に相談した探偵事務所が弁護士と提携していれば、スムーズな対応が可能です。