迷惑行為を行う社員の存在は、組織として一体で動く企業にとって、ともすれば致命的な問題になりかねません。
指導や話し合いによる解決が望ましいものの、平和的な手段で落着できない場合は、毅然とした態度で臨むことが必要になります。
本記事では、そのような存在を「モンスター社員」と称し、離職を前提とした対処方法についてまとめました。
目次
損害を与えるモンスター社員とは
モンスター社員とは、その目に余る行動により、企業に様々な損害を与える存在を指します。
しかし、一括りに損害と言っても、その内容は多岐にわたるものです。
モンスター社員は、どのような形で悪影響を及ぼすのでしょう。
モンスター社員が会社に及ぼすリスクと損失
企業がモンスター社員を抱えることにより、様々なリスクや会社に与える損失が想定されます。ここでは、代表例として次の3パターンを取り上げました。
- 秩序の乱れによるトラブル対応の遅滞
- 社員間のトラブルによる人材の損失
- 生産性の低下
秩序の乱れによるトラブル対応の遅滞
秩序とは物事の正しい順序・筋道のことです。
モンスター社員の問題行動により秩序が乱れ、部下から報連相がスムーズに上がらなくなると、大きなトラブルの発見や初期対応に遅れが生じがちになります。
社員間のトラブルによる人材の損失
モンスター社員の迷惑行為が周囲を巻き込むと、人間関係のトラブルや特定社員への攻撃へとつながっていきます。
その結果、迷惑や被害を被った社員のモチベーションが低下したり、退職に追い込まれたりという人的損失が生まれやすくなるのです。
生産性の低下
モンスター社員の規律やモラルに反する行動は、本人の業務を直接的に遅滞させるだけでなく、周囲の作業まで巻き込んでしまいがちです。
その結果、企業全体が効率と集中を欠き、業務品質の低下や納期遅延へとつながりかねません。
モンスター社員の行動が示す兆候
実際に、モンスター社員に対し何らかのアクションを起こすには、問題行動の内容把握が不可欠です。本章では、モンスター社員の兆候といえる問題行動について、傾向を下記の3パターンに分類しながら考えていきます。
- 社会的なモラルの欠如
- 協調性の欠如
- 必要とされる能力の欠如
社会的なモラルの欠如
最もわかりやすい問題行動は、突然の無断欠勤や遅刻が多いことです。
勤務時間中であれば、ゲームなどをして仕事を放棄する、無許可で外出するなどの業務怠慢が挙げられます。
あるいは、指示を受けても嫌なことはやらない、社内の規則を無視するなど、業務命令に従わないこともあるでしょう。
このようなモンスター社員の行動は、周囲の同僚に「あの人ばかりずるい」「あの人が許されるなら自分もいいだろう」という考えを呼び起こします。
その結果、職場全体の士気や集中力が低下したり、新たなモンスター社員が生まれたりという問題が発生するのです。
協調性の欠如
作業効率や情報共有、報連相を確保するためには、職場の人間関係が円滑であることが重要です。
しかし、協調性のないモンスター社員は、トラブルの原因となる問題行動を平気で起こします。
他の社員に対する嫌がらせや無視、強い自己顕示欲と承認欲求による周囲の撹乱、セクハラやパワハラなどのハラスメント行為はその典型と言えるでしょう。
このような人間関係上のトラブルがあっては、職場がスムーズに機能するはずがありません。
最悪の場合、モンスター社員の行動に耐えられなくなった優秀な同僚が、退職を選んでしまうことも想定されます。
必要とされる能力の欠如
一定の業務を担えないほどの能力不足を示す社員にも、モンスターである可能性があります。
勿論、当該社員が必要な知識や技術を得るため、努力をしているのなら話は別です。
しかし、能力不足を指摘されても平気で聞き流す、ミスを隠蔽してごまかすなどの行動が見られる場合は、モンスター社員であると言えるでしょう。
また、最初から履歴書や職務経歴書に虚偽を記述し、前提となる経験やスキルがあると詐称していたのであれば、事態はさらに悪質です。
社員がモンスター化する背景
企業の中にモンスター社員が発見されたとしても、簡単に解雇して終わりというわけにはいきません。
処分を下す前に、問題行動の原因が何なのかを把握する必要があります。
また、企業側の努力で解決できるのかどうかを検討することも大切です。
問題行動の根底にある理由
問題行動の理由はモンスター社員だけでなく、企業側にあることも考えられます。
過度に自己主張する社員を野放しにする社風、有給休暇を取りにくい雰囲気など、理不尽な不文律はモチベーションの低下を招きがちです。
給与などの労働条件が不満だったのなら、納得するまで話し合うことができていれば、モンスター化を防ぐことができたかもしれません。
場合によっては、配置転換や業務変更などで解決できる可能性もあるでしょう。
また、能力不足の場合には、充分な研修や教育を実施したか否かの確認も大切です。
企業が対応できない社員側の要因
企業側にモンスター化の理由があると判明したら、指導や話し合い、注意などの適切なアプローチをすることで改善を試みます。
それでも問題行動が続くなら、当該社員がモンスター化した要因は本人にあり、企業側では対応できない可能性が高いと言えるでしょう。
たとえば、社会的なモラルや協調性の欠如から来る行動を、本人が権利だと主張して譲らないなら、企業側はどうしようもありません。
能力の欠如が、経験やスキルの詐称によるものなら、その時点で社員側に非があったと言えます。
モンスター社員を離職させる段階別の対応方法
労働契約法第16条には、このような記載があります。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
つまり、解雇には企業側だけでなく、社会的も当然であると認められるだけの理由が必要なのです。
おまけに、第16条は抽象的な表現ですので、万人が同じ解釈をするとは限りません。
離職を促す際は慎重に段階を踏み、穏便な手段から進めていくことが重要です。
また、モンスター社員と話し合う際は、必ず録音を残すことをお勧めします。
退職勧奨
最初の段階として、退職勧奨することにより自主退職を促していきます。
しかし、職を辞するということは、モンスター社員と家族の人生に関わる大きな決断です。
わかりましたと即答できるものではありません。
また、会社に言いがかりをつけられていると、ゆがんだ解釈をされる場合もあるでしょう。
最悪の場合、違法な退職強要だと訴訟を起こされることも考えられます。
どのような理由で今回の勧奨に至ったのか、順を追って分かりやすく説明し、社員側からの反論にも正確に対応することが重要です。
必要となる業務チェック
退職勧奨を行う前の準備として、対象となるモンスター社員の日常調査を行っておくことをお勧めします。
従業員側から見ると、退職勧奨は退職強要との区別がつきにくく、トラブルに発展する可能性も充分にあり得るものです。
事前に当該社員の日常調査を行い、社外に出たときや業務時間外も含めた問題行動を把握することは、トラブルが起きた時に正当性を示す材料になります。
解雇予告
退職勧奨に応じないモンスター社員に対し、解雇処分を下すには、その前に解雇予告という段階があります。
これは労働基準法第20条に定められた義務であり、解雇日の少なくとも30日前までには、当該社員に対して解雇予告を行わなくてはなりません。
(30日に足りない場合は、不足日数に応じた解雇予告手当の支払いが必要)
就業規則に懲戒や解雇に関する記載があるのなら、法律と同様に就業規則の遵守も求められます。
また、解雇予告は口頭でも有効ですが、それでは証拠が残りません。
解雇予告日・解雇日・解雇理由を明記した「解雇理由証明書」「解雇予告通知書」を作成し、書面を通じた解雇予告をすることが、のちのトラブルを回避するポイントです。
必要となる業務チェック
解雇予告をされたモンスター社員は、不当解雇に当たるかどうかの確認を始める可能性があります。
そのため、解雇理由が労働契約法の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に当たらないことが非常に重要です。
解雇理由に挙げた問題行動については、解雇予告をする前に裏付け調査を行い、証拠を揃えておくことをお勧めします。
社内で実施するのが難しい場合は、探偵社など調査のプロフェッショナルに依頼することも一案です。
解雇
解雇は「普通解雇」と「懲戒解雇」に分けられます。
前章で、解雇には30日前までの解雇予告が必要であると取り上げましたが、これは普通解雇に当たる場合のルールです。
懲戒解雇は、解雇理由が違法行為や重大な経歴詐称など、非常に悪質である場合の「制裁」として行われるものになります。
この場合は、労働基準監督署から解雇予告除外認定を受けていれば、解雇予告なしで即日解雇をすることが可能です。
必要となる業務チェック
懲戒解雇は、解雇理由が就業規則に明記されていることが前提です。
また、普通解雇と同じく「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当しないことが必要とされます。
そのため、懲戒解雇の解雇理由についても、裏付け調査による証拠固めは欠かせません。
懲戒解雇は普通解雇に比べ、該当社員が受けるダメージが大きくなります。
訴訟などに発展しないよう、より強固なトラブル対策を講じることが大切です。
まとめ
今回の記事では、企業側から見たモンスター社員の特徴と対処方法について見てまいりました。
モンスター社員の放置は、企業が大きな損害を被るリスクとなります。
しかし、安易に退職勧奨や解雇をすることにも、不当解雇とみなされるというリスクがあるのです。
解雇関連のトラブルが訴訟に発展し、企業側が敗訴した判例を見ると、1,000万円を超える支払いを命じられたケースがいくつも見られます。
モンスター社員を解雇に踏み切る際は、できれば退職勧奨、遅くとも解雇予告の前には、弁護士に相談しておくことが大切です。
同時に、必要に応じて探偵などに調査を依頼し、解雇理由の裏付け調査を万全にしておくことをお勧めいたします。
本記事が、モンスター社員に関わる問題を解決するために、いくばくかでも貢献できましたら幸いです。