「ハラスメントが起きているようだが、どうしても状況がつかめず適切な対処ができない」
ハラスメントに対処したいが、状況をつかめずに悩んでいる総務・人事の方も多いのではないでしょうか。
職場におけるハラスメントの発生は依然として高い水準を保っています。
厚生労働省の委託調査の結果では、ハラスメントの件数は変わらないという割合が最も高く、どの職場で起きていても不思議ではありません。
ハラスメントは発生させないのが重要ですが、起きてしまった時の対処が会社の社会的信用を左右します。
この記事ではハラスメントの種類や防止策、そして対応が最も厄介と思われる状況がつかめない時の対処について解説いたします。
- ハラスメントの状況がつかめないからといって絶対に見過ごしてはならない
- ハラスメントは状況がつかめない時の対処が最も難しい
- 対処のベースとなる実態の調査は外部の力を利用するべき
目次
ハラスメントとは
ハラスメントとは、相手に対して不快な状況を引き起こしたり、人間としての尊厳を傷つけたりする行為です。
たとえ行った人物が相手を不快にさせたり傷つけたりする意思がなかったとしても、受けた側が不快な感情を抱けばハラスメントになります。
「ただ指導していただけ」「軽い気持ちでいじっていただけ」などという理由は通用しません。
会社にはハラスメントを防ぐ義務がある
会社は労働者に対して快適な就労ができるように職場環境を整えるとともに、生命や身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべき義務を負っています。
これら義務の履行を怠った場合、使用者責任を問われたり損害賠償を請求されたりする可能性があります。
会社はハラスメント発生を防止する対策を講じるとともに、ハラスメントを確認したら絶対に見て見ぬふりをせず迅速に対処しなければなりません。
「状況がつかめなかったから何も対処しなかった」では通用しないのです。ハラスメントを防止する対策の一つとして、国はいわゆる「パワハラ防止法」を施行しました。
パワハラ防止法とは
すべての労働者がいきいきと働ける社会の実現を目指して成立した労働施策総合推進法は、2019年(令和元年)の改正によりパワーハラスメントの防止が義務付けられました。
そのため同法律は「パワハラ防止法」とも呼ばれるようになっています。
改正当時は大企業のみでしたが、現在では中小企業にも義務化されており、パワハラ防止のため会社は次のような措置を講じなければなりません。
- 事業主がパワハラについての方針を明確化して、社員に周知・啓発する
- 相談窓口の設置などパワハラの相談に対応する体制を整備する
- パワハラに迅速かつ適切に対処する
なお、パワハラ防止法には罰則規定がありません。
しかし、厚生労働大臣が必要と判断した場合には企業に対して指導や助言、勧告するとされています。
勧告に従わない場合には企業名が公表されますので、企業の社会的信用が失われるなど少なからぬダメージを被る事態になるでしょう。
ハラスメントの種類
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントは以前から問題となっていますが、現在約50種類ものハラスメントがあると言われています。
全てのハラスメントは排除されなければなりませんが、このうち法律で禁止される行為が定義されているのは次の4つです。
1.パワーハラスメント(労働施策総合推進法により定義)
パワーハラスメントは、同じ職場で働く者に対して上下関係や優越関係を利用して業務の範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為です。
例えば、殴る、蹴るなどの身体的攻撃、長時間にわたる叱責などの精神的攻撃、達成困難な課題やノルマを課す過大な要求などがあります。
2.セクシャルハラスメント(男女雇用機会均等法により定義)
セクシャルハラスメントは、相手の意に反する性的言動によって、働く上で不利益を被ったり、性的な言動によって就業環境が妨げられたりする行為です。
セクシャルハラスメントは女性だけでなく男性やLGBTに対する行為も該当します。
具体的には体に触れるなどの性的行為や、恋人の有無、性的な事実関係を執拗に尋ねる行為などが挙げられます。
3.ジェンダーハラスメント(男女雇用機会均等法により定義)
ジェンダーハラスメントは、自分が考えている「男らしさ」「女らしさ」の基準を強要したり、性別に基づいて採用や昇進などで不平等な対応をする行為です。
例えば、「男なのに酒も飲めないのか」と言ったり、女性のみにお茶くみ業務をやらせたりするなどが該当します。
4.マタニティハラスメント(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により定義)
マタニティハラスメントは、妊娠・出産で不利な就業環境を強いられたり、制度を利用しないよう迫るハラスメントです。具体的には育児休業制度を取得させなかったり、妊娠中や産休明けに自主退職を迫ったりする行為などが挙げられます。
ハラスメントが会社へ及ぼす影響とは
もしハラスメントが発生した場合、自社にどのような影響が及ぶのでしょうか
職場環境悪化による生産性の低下
ハラスメントが起きている職場では生産性の低下や業績の悪化が発生します。
悪化した職場環境ではハラスメントの被害者だけでなく、他の社員にも悪影響を及ぼすでしょう。「いずれは自分がハラスメントの対象になるかもしれない」と不安に感じていては、仕事に対するモチベーションを高めるのは不可能です。
離職の増加や採用活動の困難化による人材不足
ハラスメントの職場で働きたいと望む人はいませんので、ハラスメントが蔓延すると退職する社員が増加するだけでなく、新卒・中途問わず採用活動も困難を極めます。
欠員が増えると各人の業務量も増加し、それがさらに離職を促すという連鎖退職が発生する可能性がでてくるでしょう。本来であれば不要である欠員を埋めるための余分なコストは経営を圧迫します。
社会的イメージの悪化による売上の低下
ハラスメントがテレビやインターネットなどで公になると、企業イメージや信用の低下につながります。外部からの評判が下がって売上が落ち込んだり、取引を停止されたりする事態も発生するでしょう。一度悪化してしまった企業イメージを回復させるためには莫大なコストと時間が必要になります。
ハラスメントの予防策とは
ハラスメントを起こさせないのが肝要ですが、どのような防止策を講じれば良いのでしょうか。具体的には以下のような予防策が挙げられます。
ハラスメントの教育や研修
社員がハラスメントについて学ぶことが重要です。
ハラスメントは約50種類も認識されており、自分では気付かないうちにハラスメントを行っている可能性もあります。
何がハラスメントにあたるのか、どこからがハラスメントなのかなどについて社内で学ぶための場を設け、研修や教育を行いましょう。
相談窓口の設置
ハラスメントを受けた社員が気軽に相談できる体制をつくる取り組みも必要です。
対面で話す以外にもメールやチャット、ウェブ会議ツールの導入など相談しやすい工夫も重要になります。
社内アンケートの実施
ハラスメントの状況を調べるためには社内アンケートも有効です。
アンケートによりハラスメントの芽を発見することができ、早期に解決できる可能性が高まります。アンケートは回答者が事実をありのまま記載できるように匿名で行います。
ハラスメントが起きてしまったときの対処とは
不幸にしてハラスメントが起きてしまった場合に必要な対処法は次のとおりです。
迅速で客観的な調査に基づく事実確認
社内でハラスメントが行われている、またはその可能性があると認識したときにはその事実関係を迅速に確認しなければなりません。。
まずはハラスメントの被害者、行為者に対して事実関係を聴取します。
ただ聴取しても被害者と加害者の言い分が異なる事態が往々にして見受けられます。
客観的な事実関係を把握するためには関係者への聞き取りだけでなく、中立的な第三者の力を借りる場合もあるでしょう。
その場合どうすれば良いかは、次の事項で説明します。
被害者へのフォロー
被害者の意向を確認したうえで、会社は様々な支援を実施しなければなりません。
具体的には、ハラスメント行為者からの謝罪、行為者との関係改善に向けた支援、行為者または被害者の異動、メンタルヘルス不調の治療のための援助などが挙げられます。
行為者への指導や処分
ハラスメントが確認されたからと言ってすぐに行為者へ処分を行うことはできません。
ハラスメントの行為者は意図せずハラスメントを行っている場合もあります。
自分の行為がハラスメントに該当すると認識させ、適切な行動がとれるようにする指導・教育が必要です。そのうえで改善が見られない、ハラスメントが続くという状況に至って処分を検討する段階に入ります。
迅速で客観的な調査には第三者の力を借りるのが最善
毎回正確な状況を把握できるとは限らない
ハラスメントが起きてしまった場合、最も重要なのは状況を客観的に把握することですが、簡単に行かない場合も散見されます。
被害者が既に退職してしまって連絡が取れない場合や、在職中であっても行為者からの報復を恐れていたり、気が小さくて事実を証言できない場合もあります。
また、第三者から証言を得ようとしても、面倒に巻き込まれたくない、余計なことを言うと将来に影響がでるのではないかとの懸念から肝心な情報を集められない場合も見受けられます。
しかし状況を正確につかめなければ、被害者や行為者に対する的確な対応へとつなげることができません。
実態をつかめない時には第三者による調査依頼を
必要な情報を得られない時は、探偵事務所に調査を依頼してみるという方法もあります。
探偵事務所は調査を生業とし、情報収集や証拠収集に精通しているプロなので、自社で解決できない問題に対処する方法として有効な手段となります。
ただ探偵事務所といっても、浮気調査など個人の調査を得意にする事務所と、社内不正や取引先の背後関係の調査など、企業を対象とする事務所があります。
ハラスメント調査は企業調査の分類になりますので、探偵事務所のウェブサイトをチェックする、または相談の際のヒアリングで確認することが必要となります。
プロの調査員によるハラスメント調査とは
プロの調査員が行う、ハラスメントの証拠を集める手法をご紹介します。
聞き込み
関係者から聞き込みする場合には状況に応じて次の2種類の方法を使い分けます。
探偵事務所の調査員の身分を明かして聞きこむ
調査機関として正当な理由で動いていると告げて行う聞き込みです。
関係者の中には、会社には言いにくいけれども第三者の調査機関になら話すという人がいます。また自分たちの代わりに事情を聞いてほしいと会社から依頼を受ける場合もあります。
身分を明かすことで相手に安心感を与えて、会社のヒアリングでは得られない情報を聞き出す方法です。
調査員の身分を明かさずに聞き込む
調査員であると身分を明かさずに行う聞き込みです。
状況に応じた役柄を設定し、現在起こっている問題や、聞き込みを行う人物に適した質問・話題をチョイスする必要があり、臨機応変な対応が求められる方法です。
潜入調査
調査員が実際に、ハラスメントが疑われる現場に関係者として潜入して、直接証拠を集めます。当然調査員は自分の身分を明かしませんので、ハラスメント行為者は普段通りの行動を取り、ありのままの情報を得ることができます。
ハラスメント解決をもたらした事例
※守秘義務に反しないよう、内容の一部に改変を加えております。
登場人物
- A警備部長:調査を依頼してきた某警備会社の部長
- B隊長:パワハラを行っていた警備隊の隊長
- C調査員:警備隊に潜入調査した調査員
- Dさん:被害者の警備隊隊員
1.調査に至るまでの経緯
依頼者は、関東地方にある警備会社の警備部長A氏です。
この警備会社は、オフィスビルや商業施設などに警備員を派遣している中堅の会社ですが、
都内にある警備隊で深刻な問題が発生していました。
この警備隊では1年間で多くの退職者が発生し、人を補充してもその人物がすぐ辞めてしまうという状況が続いており、その原因を探るため退職を申し出た隊員にヒアリングを行ったところ、警備隊のB隊長によるパワハラに耐えられないとの発言が相次ぐことになったのです。
そこでB隊長を本社に呼び個別面談を実施、事実関係を確認しましたが、指導の一環でパワハラにあたるようなことはしていないと否定されました。それと同時に同警備隊の副隊長や班長、一般隊員にヒアリングも実施しましたが、誰もパワハラの事実を認めませんでした。
面談を実施したA部長によると、彼らの様子から明らかにB隊長に忖度していることが感じられたそうです。しかし当然のことながらパワハラの明確な証拠がない限りB隊長への対応はできません。
そこでA部長から相談を受けた弊社は、警備隊での実態を調査しパワハラの証拠をおさえるため、調査員のCを同社に入社させ潜入調査をすることにしました。
2.調査の経緯
Cはこの会社に中途採用されたことにして、問題の警備隊に配属されました。
この警備隊は一勤務3名で昼間は3人体制ですが、午後8時から翌朝7時までは交代で仮眠に入るため2人での勤務です。Cは研修ののち、実際の勤務に入ることになりました。
Cはパワハラされやすい気が弱そうな人間を演じ、終始おどおどした態度を取ってパワハラのターゲットとなるように努めました。また、それと並行して同僚への聞き込みを開始します。社交的な同僚のDさんと仲良くなったところ、少しずつB隊長のパワハラについての実情を打ち明けてくれるようになりました。
Dさんからは、辞めていった人間はみんなB隊長からパワハラを受けていた、パワハラはビルの関係者がほとんどいなくなりB隊長との二人勤務になる夜に行われる、副隊長や班長はパワハラを認識しているが見て見ぬふりをしているなどの証言を得ました。
また他の隊員にもさりげなく聞き込みを行ったところ、同じような内容の証言を得ています。
配属直後はB隊長によるパワハラをうかがわせる言動は確認できませんでしたが、配属されてからしばらくして、B隊長と二人勤務になった夜に事態が動き出しました。
些細なミスをしてしまったCに対してB隊長は、同じ内容を何度もネチネチと指摘し続け、「指導」と称する叱責は1時間以上続きました。
以降も些細なミスで長時間の「指導」は止まず、反省・謝罪しても終わりません。
挙句の果てには、個人の人格や関係のない家族を攻撃するような発言をされることもありました。B隊長の「指導」はエスカレートするばかりで、ついには罵声を浴びせ、胸倉をつかまれたり足で蹴られたりする事態にまで発展しました。
当然ですが、Cが受けたパワハラはボイスレコーダーや小型のピンホールカメラで録音・撮影されており、その他の隊員に行われた行為も詳細に記録されています。
潜入を始めて1カ月、B隊長によるパワハラの証拠が揃ったと判断し、Cは退職したとして潜入調査を終了。全ての証拠をもとに調査報告書を作成して提出、あわせてA部長に状況説明を行いました。
3.その後
A警備部長は再度B隊長との面談を設定し、改めてパワハラの有無を尋ねたところ案の定B隊長はパワハラを否定しました。しかし今回は以前とは異なり、パワハラの証拠をつかんでいます。音声や映像、調査報告書を提示したところ、言い逃れができないと観念したB氏はパワハラ行為をようやく認め、処分が決まる前に辞表を提出し会社を去っていきました。
この警備会社では今回のパワハラ事件の反省と再発防止のため、現在はパワハラ防止研修や相談窓口の設置などの対策を進めているところです。
まとめ
同記事ではハラスメントの内容や予防策、起きてしまったときの対策などを解説しました。
ハラスメントで厄介なのは、被害者と行為者の発言が食い違う時や、関係者から証言を得られない時です。情報収集・証拠収集などにお困りの際は探偵事務所への相談をご検討ください。ハラスメントにより会社が被る損害ははかり知れません。損害を少しでも軽減し、対応策をとるためには必要な証拠を素早く揃える必要があります。
多くの探偵事務所は相談に無料で対応しています。なかには相談のみで解決する事案もありますので、お悩みの方は一度相談してみることをお勧めします。